東京高等裁判所 昭和35年(ネ)2969号 判決
控訴会社が訴外日本ベントナイト工業所に宛てた被控訴人主張通りの約束手形一通を振出したこと、右「日本ベントナイト工業所」は訴外大場又一の商号で、同人はこの手形を取得して所持する内に昭和三四年一〇月三〇日死亡したこと、同人の相続人としては妻大場よねの外長女、次女および三男のあつたことはすべて当事者間に争がない。
(証拠)を綜合するに、大場よねは夫の死後である昭和三五年一月二九日この裏書欄の「日本ベントナイト工業所大場又一」なるゴム印を用いて裏書をなし又一名下に捺印したものであることが認められる。
右裏書の効力について考えるに、右裏書当時大場又一は既に死亡しているのであるからこの裏書は妻の大場よねが裏書人としてした裏書と認めるの外ないが、よねが右のような商号を用いた事実を認むべき証拠は全くないのであるから右裏書の記名をもつてよねの記名とは認められない。すなわち、この裏書には裏書人たる大場よねの記名がないことになる。のみならずその当時本件手形はよねの外数人の子女によつて相続により取得せられていたことは前示のとおりであり、よねの単独の権利に帰属せしめられた事実を認むべき証拠はないから、よねは単独でこの手形を譲渡できる訳はない。右の裏書の記名をもつてよねが他の子女のためにもするものであることを表示したものと認められないことは言うをまたない。いずれにしても本件手形の第一裏書欄の裏書は実質的に無効であるからこれにより被控訴人に権利が移転するわけはない。被控訴人は裏書の連続があるから被控訴人に権利があると主張する。なるほど形式上裏書連続のあることはそのとおりであるが、手形法第一六条は裏書の連続あるときは所持人を一応権利者と推定する趣旨に過ぎないので実質的の権利がどうなつているかは別の問題である。そして本件では被控訴人への裏書が実体上無効であることは前の説明のとおりであるから、被控訴人は手形上の権利を取得できなかつたのである。その請求の理由のないことは既に明らかである。
(角村 菊池 吉田)